Scope3(スコープ3)とは?算定の4つのステップを解説(前編)
はじめに
こんにちは。ロジきむです。
製品を対象として、原材料の調達・製造・物流・販売・廃棄までの一連の流れ(ライフサイクル)で生じる環境負荷を、
総合的・定量的に評価することを「製品のLCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)」といいます。
これに対して、サプライチェーン排出量(後述)を評価することは「組織のLCA」とも呼ばれます。
サプライチェーン上の活動に伴う排出量を算定することは、環境面だけではなく、経済リスクの側面からもサプライチェーンの把握・管理が重要視され、社会的要請も高まっています。
なお、国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)は2023年6月、上場企業に対してScope3(スコープ3)を含めたサプライチェーン排出量の情報開示を求めることを「サステナビリティ開示基準」に盛り込みました。
Scope3(後述)は、製品の調達から顧客のもとに届いて使用した際の温室効果ガス排出量のことです。
サプライチェーン排出量の算定に必要なScope3の4つのステップについて、前編と後編に分けて解説いたします。
今回の前編では、Scope3の解説と算定の4ステップのうち、ステップ1~2について取り上げています。
サプライチェーン排出量について
私たちが普段目にする商品や製品が消費者の手元に届くまでの、原材料の調達・製造・物流(在庫管理・配送)・販売・消費(廃棄)といった一連の流れのことをサプライチェーンと言います。
サプライチェーン排出量とは、このサプライチェーンの一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量のことです。
事業者自らの排出(直接排出)だけでなく、事業活動に伴って発生する排出(間接排出)など、事業活動に関するあらゆる排出を合計した排出量のことであり、以下の式で算定します。
サプライチェーン排出量 = Scope1(スコープ1)排出量 + Scope2(スコープ2)排出量 + Scope3(スコープ3)排出量
Scope3(スコープ3)とは
温室効果ガス排出量の算出・報告の国際基準である「GHGプロトコル(※)」では、温室効果ガスの排出を把握する範囲を3つの区分(Scope:スコープ)で定義しています。
※:GHGプロトコル
温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の排出量を算定・報告する際の国際的な基準。
Scope1とScope2は、事業者が自らの活動を通じて排出している温室効果ガスを対象としているのに対して、
Scope3は、調達した原材料から販売後の利用、その後の廃棄にいたるまでの間に排出される温室効果ガスも対象としています。
それが「Scope3」で、Scope1とScope2以外の間接排出量を示す指標です。
モノのサプライチェーンは、「上流(原材料の調達や輸送・配送など)」と「下流(製品の使用や廃棄)」に分類することができ、スーパーなどの小売業におけるサプライチェーンでは、食品メーカーや生産者が「上流」で、来店する消費者が「下流」にあたります。
こうしたある企業から見た時のサプライチェーンの「上流」と「下流」から排出された温室効果ガス排出量を対照するのが、「Scope3」です。
Scope3はさらに、「15のカテゴリ」と任意の「その他」に分類されています。
なお、Scope3の15カテゴリについては、後編にて解説いたします。
〇の数字はScope3のカテゴリを示す。
出典:環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
サプライチェーン排出量全般(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html)
Scope3(スコープ3)を算定する4つのステップ
Scope3(スコープ3)は以下の4つのステップで算出できます。
ステップ1:算定目的を設定
どのような事業目的を達成するために算定に取り組むのか。
ステップ2:算定対象範囲を確認
温室効果ガスの種類・組織的範囲・地理的範囲・活動の種類・時間的範囲
ステップ3:Scope3のカテゴリ1~15に分類
該当する取り組みがどのカテゴリに含まれるかを分類する。
ステップ4:各カテゴリの算定
各カテゴリについて算定方針の決定、データの収集、排出量の算定を行う。
15カテゴリを合計するとScope3排出量となる。
Scope3(スコープ3)の算定目的と対象範囲の確認
Scope3(スコープ3)における温室効果ガス排出量は、基本的に自社以外からの排出であるため、詳細な算定や削減対策を行うことは容易ではありません。
そのため、Scope3の算定に当たっては、目的の設定と対象範囲の確認が大事になります。
■算定目的(ステップ1)
それぞれの算定目的ごとに必要となる算定制度や算定範囲が異なります。
算定目的に際しては、どのような事業目的を達成するために取り組むのかを踏まえて、算定目的の達成に必要な算定制度などを明確にする必要があります。
算定目的の例を以下に示します。
※1:削減貢献とは、自社が提供している製品やサービス等が社会全体の排出量の削減に貢献することです。
類似の表現として、削減回避、Avoided Emission、Product Inovation等があります。
※2:基本ガイドライン(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver.2.6.pdf)
出典:環境省 サプライチェーン排出量算定の考え方 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf
■対象範囲の確認(ステップ2)
算定目的を設定したら、どこまでを算定の対象範囲とするのかを確認します。 算定する目的に合わせ、国内グループだけを対象とするのか、海外グループも対象とするのかを決定します。
算定対象とする範囲を表 サプライチェーン排出量の算定対象範囲に示します。
表 サプライチェーン排出量の算定対象範囲
出典:環境省 サプライチェーン排出量算定の考え方 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf
■Scope3排出量の重複算定について
全ての国内企業のScope1、Scope2排出量を総和すると、日本企業全体の温室効果ガス排出量の総和になります。
しかし、Scope3を含めたサプライチェーン排出量の総和は、企業Aと企業Bでサプライチェーン上の活動が重複している場合(Scope3排出量の重複算定図参照)、温室効果ガス排出量が重複してカウントされます。
Scope3排出量の重複算定図
出典:環境省 サプライチェーン排出量算定の考え方 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/supply_chain_201711_all.pdf
サプライチェーン排出量の算出は、温室効果ガス排出量の集計が目的ではありません。
排出量の集計が目的であれば、企業の直接排出量(Scope1)を合計すれば算出できます。
サプライチェーン排出量算定の目的は、サプライチェーン上の何(どこ)が、排出に対して影響しているかを理解することによって、
排出量削減を促す「動機付け」や「目標達成の意欲向上」などが真の目的になります。
なお、重複計上を前提とした仕組みになっているおかげで、サプライチェーン上の活動に焦点を当てて他社の削減活動までも評価することにより、企業間で連携して排出量削減の取り組みを実施し、より多くの削減が可能となります。
おわりに
サプライチェーン排出量の対象となるプロセスは、事業者ごとに異なります。
サプライチェーンの全体像を把握する必要があるため、まずは、事業ごとに調達から消費までのプロセスを整理しましょう。
今回は、Scope3(スコープ3)の説明と算定の4ステップのうち、ステップ1と2について紹介いたしました。
次回は、算定の4ステップのうち、残りのステップ3と4について紹介いたします。
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