【IoT研究会】トレーサーシステム開発①要件整理・デバイス選定編

はじめに

これまでIoT研究会では、社内で取り組んできたIoT技術の検証内容を紹介してきました。今回からは新たなテーマとして、「トレーサーシステム開発」 について複数回でお届けします。トレーサーシステムとは、人やモノの位置を把握し、対象がいまどこにいるのか、どのように移動しているのかを可視化することを目指したシステムです。

今回はその活用例としてトライアスロンを想定し、選手位置の可視化や現在位置・種目ごとのゴール時刻予測に取り組みます。第1回となる今回は、トレーサーシステム開発に取り組むことになった背景と、初期検証を踏まえてBLEタグ(*)を採用することになった理由について紹介します。

(*)BLE(Bluetooth Low Energy)は、省エネルギーでの利用を目的として設計されたBluetoothの無線通信規格です。短いデータを「必要なときだけ」送受信し、無線を使わない時間はデバイスをスリープさせやすい構造を持つため、電池駆動のセンサーやビーコン、ウェアラブルなどで広く利用されています。また、スマートフォンで標準的にサポートされているため、スマートフォンアプリからデバイスの検知や設定変更を行いやすいという利点があります。

取り組みの背景

この取り組みは、2024年10月、当社の社長が参加するトライアスロンに関する話題から始まりました。

トライアスロンでは、スイム、バイク、ランという複数の種目を連続して行います。競技距離も長く、選手がコース上のどこにいるのかをリアルタイムに近い形で把握することは簡単ではありません。そこで出てきたのが、「GPSを使って、トライアスロン中の選手の位置を計測できないか」というアイデアでした。

このアイデアをもとに社内で検討が始まり、水戸オフィスメンバーの有志が参加して取り組みを進めることになりました。一方で、今回のテーマでは、位置情報の取得方法だけでなく、デバイス選定、通信方式、電波特性、装着性など、実際に競技で利用することを想定した検討が必要になります。そのため、IoT領域で実績のあるS社にもご支援いただきながら、検討を進めることになりました。

競技シーンを踏まえたGPS検証

まずはトライアスロンを理解するところから始めました。大会の流れ、選手の服装、スタート人数、スイム・バイク・ランの特徴を整理し、実際の競技シーンをイメージしながら検証を進めました。

GPSであれば、位置情報を直接取得できます。そこで、GPS機能付きの検証キットを使い、以下のような観点で位置情報の取得状況を確認しました。

  • スイムを想定した、水中・水辺での取得状況
  • バイクを想定した、高速移動時の追従性
  • ランやコース環境を想定した、山間部での取得状況
  • その他の環境確認として、建物内外でのGPSの挙動

これらの検証を通じて、GPSで位置情報を取得すること自体には一定の可能性が見えてきました。一方で、実際にトライアスロンの選手が競技中に装着することを想定すると、別の課題も見えてきました。

GPS機器で見えてきた課題

GPS機器で位置情報を取得して、さらにサーバへ送信する場合、通信機能やバッテリーも必要になります。そのため、デバイスはどうしてもある程度のサイズになりがちです。しかし、トライアスロンでは、選手はスイム、バイク、ランを通して競技を続けます。競技中に大きなデバイスを身に付けると、動きの妨げになったり、選手にとって負担になったりする可能性があります。長時間装着し続けることを考えると、できるだけ小型で、競技の妨げになりにくいデバイスであることが重要になります。GPSで位置情報を取得すること自体には可能性がある一方で、今回の用途では、デバイスのサイズや装着性を重視する必要があることが分かりました。

BLEタグの採用

GPS機器で見えてきた課題を踏まえ、次に検討したのが、より小型で装着しやすいデバイスです。そこで、足首に装着するアンクルバンドのような形も含めて検討し、その中で候補となったのがBLEタグです。

BLEタグは、GPS機器と比べて小型化しやすく、選手への装着負担を抑えやすいという特徴があります。一方で、GPSのようにタグ単体で位置情報を取得するわけではありません。BLEタグを使う場合は、スマートフォンなどのスキャン端末でBLEタグの電波を受信し、その受信情報をもとに位置を推定する必要があります。

具体的には、以下のような仕組みを想定しています。

  • 選手がBLEタグを装着する
  • スマートフォンでBLEタグをスキャンする
  • スキャン結果をクラウド上のサーバへ送信する
  • Web画面で選手の位置を表示する

GPSとは異なり、位置情報を直接取得するのではなく、BLEタグの受信状況をもとに選手の位置を推定する考え方です。S社にもBLEタグの検証をご支援いただき、水中での受信状況や、屋外環境でどの程度の距離まで電波が届くかを確認しました。また、社内でも車を使った移動検証を行い、移動時の受信状況を確認しました。

検証の結果、水中ではBLEタグの電波が届きにくく、安定した受信は難しいことが分かりました。ただし、タグが水上に出たタイミングでスキャンできる可能性はあるため、スイム中にどの程度受信できるかについては、実際の競技シーンを想定した追加検証が必要です。一方で、バイクやランを想定した屋外環境では、一定の条件下でBLEタグの電波を受信できることを確認しました。この結果から、スイム区間には検証すべき課題が残るものの、バイク・ラン区間での位置把握にはBLEタグを活用できる可能性が見えてきました。

これらの検証結果を踏まえ、今回の取り組みでは、選手への負担を抑えられるデバイスとしてBLEタグを採用することになりました。

初期検証で見えてきたIoT活用のポイント

今回の初期検証を通じて改めて感じたのは、IoTでは技術単体だけで判断できないということです。

  • GPSで位置情報を取得できるか
  • BLEタグの電波を受信できるか
  • スマートフォンでスキャンできるか

もちろん、これらの技術検証は重要です。しかし、それだけでは実際の競技で使える仕組みにはなりません。

実際の利用シーンを考えると、以下のような観点も必要になります。

  • 選手が競技中に無理なく装着できるか
  • 水中や水辺などの環境で利用できるか
  • 高速移動時にも検出できるか
  • 多くの選手がいる環境でも識別できるか

今回の取り組みでは、ソフトウェアだけでなく、デバイス、通信、電波、電源、装着性、そして実運用まで含めて考える必要があることを実感しました。

トライアスロンを想定した初期検証は、そうしたIoTならではの難しさを学ぶ機会にもなりました。

おわりに

今回は、トレーサーシステム開発の第1回として、開発に取り組むことになった背景と、初期検証を踏まえてBLEタグを採用することになった理由について紹介しました。当初は、GPSで選手の位置情報を取得し、サーバへ送信する構想から検討を始めました。検証の結果、GPSで位置情報を取得すること自体には一定の可能性が見えましたが、トライアスロンの選手が競技中に装着することを考えると、デバイスのサイズや装着性を重視する必要があることが分かりました。そこで、選手への負担を抑えやすい小型デバイスとして、BLEタグを採用することになりました。

次回は、BLEタグを使ってどのように選手位置を推定するのかを紹介します。スマートフォンでBLEタグをスキャンし、クラウドへデータを送信してWeb画面に表示する構成や、受信強度をもとに位置を推定するための検証について説明します。