HP-UX移行――第2回:AIXへのマイグレーションで失敗しないための技術ポイント

はじめに
本記事は、HP-UXからAIXへの移行を検討している方向けに、
「なぜAIXなのか」「どこに注意すべきか」「技術的な違いは何か」を整理して解説します。
- 既にHP-UX上で業務システムが稼働している
- ベンダーサポート終了やハード老朽化をきっかけに移行を検討している
- Linux以外の選択肢としてAIXも視野に入れている
といった方を想定しています。
HP-UXからAIX移行の背景と特徴
なぜ今、HP-UXからの移行が必要になるのか
HP-UXは長年、ミッションクリティカルな基幹システムを支えてきたUnix OSですが、
- ハードウェアの先行き不透明・調達難
- 新規案件での採用減少による技術者の減少
- クラウドやオープン系(Linux等)への流れ
といった要因から、長期運用・拡張性の面でリスクが高まりつつあります。
一方で、既存業務の性質上、いきなりクラウドネイティブ化するのが難しいケースも多く、「堅牢なUnix系OS上で、リホスト・リプラットフォームしたい」というニーズに対し、依然としてAIXは有力な選択肢の一つです。
AIXへの移行の特徴・メリット
HP-UXからAIXへの移行には、以下のような特徴とメリットがあります。
- 同じ商用Unix系であり、運用思想・アーキテクチャが比較的近い
- IBM Power Systemsとの組み合わせによる高信頼・高可用構成を取りやすい
- 長期サポート、ロードマップが明確で、基幹系に適した安定性
- HP-UX向けに作られたC/C++やシェルスクリプトも、一定の修正で移植できるケースが多い
一方で、「似ているがゆえに差異に気づきにくい」ポイントも存在し、移行設計・検証の段階でそれをどれだけ洗い出せるかが成功の鍵になります。
HP-UX → AIX 移行で注意すべき主な技術的な違い
ここでは、移行時にトラブルになりやすい技術的なポイントを整理します。
標準コマンド・スクリプト記法の違い
HP-UXとAIXでは、同じコマンド名であっても、
- 利用できるオプションの違い
- デフォルト挙動の違い
が存在します。
例えば、
- HP-UXの
makeコマンドには「-u(タイムスタンプ無視)」オプションがありますが、AIXのmakeでは未サポート - HP-UXでは
llコマンド(実態はls -lと同等)が標準で使えますが、AIXには標準では存在しないため、
alias やシェル関数などで代替を用意する必要があります
移行時には、以下を重点的に確認する必要があります。
- 業務バッチや運用スクリプト(sh/ksh/bash等)で使っているコマンド一覧を洗い出す
- そのうち「OS標準コマンド」のオプションや挙動の差異を調査する
- 必要に応じて、スクリプトの修正・ラッパースクリプトの用意・alias 設定などで吸収する
環境変数の差異(動的ライブラリ)
動的リンクライブラリを利用するアプリケーションでは、「ライブラリ検索パスをどの環境変数で指定するか」がOSごとに異なります。
- HP-UX:
SHLIB_PATHやLD_LIBRARY_PATHを主に使用 - AIX:
LIBPATHを主に使用
HP-UX向けに作られた起動スクリプトでは、SHLIB_PATH だけを設定しているケースがよくあります。
AIX移行時には、
LIBPATHに適切なパスが設定されているか- 既存の
LD_LIBRARY_PATHとの兼ね合い(上書き/併用) - ミドルウェアや外部ライブラリの推奨設定
を確認し、アプリケーション起動スクリプトを修正する必要があります。
プロセスID(PID)の桁数・管理の違い
HP-UXとAIXでは、プロセスIDの最大値や桁数、再利用のタイミングなど、管理方式に違いがあります。HP-UX上で以下のような実装をしている場合は要注意です。
- PIDを「固定桁数の文字列」として扱い、ファイル名やログフォーマットに埋め込んでいる
- PIDを格納する変数やテーブルの桁数・型が、HP-UX側の前提で固定されている
AIXに移行した途端、想定より大きなPIDが払い出され、
- 文字列切り捨て
- 桁あふれ
- ログ解析ツールの不具合
といった問題につながる可能性があります。ソースコード・スクリプト内で「PIDの桁数を前提とした処理」がないか、事前に棚卸ししておきましょう。
ロケール・文字コード周りの違い
ロケール・NLS関連環境変数
LANG- データベース用の
NLS_LANGなど
は、OSごとにデフォルト値やサポート状況が微妙に異なります。
AIX移行後、よく起こりうるのが次のような問題です。
- 日本語メッセージ・画面表示の文字化け
- ログファイルだけ文字化けして解析が困難になる
- 日本語パス名・ファイル名を扱う処理でエラーが発生
これらを防ぐために、
- HP-UX上での実運用時の環境変数(
env出力など)を採取しておく - AIX側で同等もしくは互換ロケールを設定できるか確認する
- アプリケーション側の文字コード前提(EUC / Shift_JIS / UTF-8 など)を整理する
といった事前調査が重要です。
C言語プログラムの移行ポイント
HP-UXとAIXでは、C/C++開発環境にもさまざまな違いがあります。
コンパイラ・標準ライブラリ・ヘッダの差異
- 利用可能なCコンパイラ(HP-UX: HP aC++ 等、AIX: IBM XL C/C++ や gcc 等)
- 標準ライブラリの実装やバージョン
- 一部のシステムコールや拡張APIの有無・仕様差
特に「OS依存のシステムコール」「スレッド・プロセス管理」「ファイルロック」周りは、
APIや挙動の違いで修正が必要になるケースが多くなります。
32ビット版から64ビット版への移行
HP-UXからAIXへの移行と同時に、「32ビット → 64ビット」へ拡張するケースも一般的です。
この場合、以下のような点に注意が必要です。
- ポインタ型、
long型などのサイズが変わることによる、構造体サイズ・アライメントの変化 - 型変換(キャスト)やサイズ前提のコード(配列長、メモリコピー等)の見直し
- 32ビット専用APIの利用有無
これに伴い、
- Makefile やビルドスクリプトでのコンパイルオプション見直し(
-q64など) - 条件コンパイル等、OS依存部の整理
が必要です。
さらに、外部ライブラリ・商用ミドルウェア(DB、MQ、APサーバ等)が「AIX版を提供しているか」「対応バージョンは何か」を事前に確認しておくことも重要です。サポートがない場合は、代替製品やバージョンアップ、アプリケーション改修を検討する必要があります。
まとめ
HP-UXからAIXへの移行は、「同じUnix系だから簡単」という印象を持たれがちですが、
実際には以下のような技術的差異を丁寧に潰していく必要があります。
- コマンド・スクリプトのオプション/挙動の違い
- 動的ライブラリ参照パス環境変数
- PID桁数・管理方式の差異を前提としたアプリの見直し
- ロケール・文字コード設定の違いによる文字化けリスク
- C言語プログラムのコンパイル・API仕様・32/64ビット差異への対応
これらをあらかじめ理解したうえで、
- AIXを選ぶ理由・目的を明確にする
- 現行資産の棚卸しと差分洗い出しを徹底する
- PoCを通じてリスクを早期に顕在化させる
といった進め方をとることで、リスクを抑えたスムーズな移行が可能になります。
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次回は、HP-UXからLinuxへ移行時の、特徴やメリット、注意すべきポイントを解説していく予定です。




