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「マイグレーション」か「再構築」か? 失敗しないための見極め方

はじめに:そのシステム、「移行」しますか? それとも「作り直し」ますか?

多くの企業が、長年使い続けてきた基幹システム、特にVB6などで構築されたシステムの扱いに頭を悩ませています。ハードウェアの保守切れ、OSのサポート終了、セキュリティリスクの増大、そして何より「このシステムを触れる技術者がいない」という現実的な問題に直面しているのではないでしょうか。

この課題への対応策は、大きく分けて「マイグレーション(移行)」「リビルド(再構築)」の2つです。

しかし、この最初の選択を誤ると、「コストをかけたのに現場が使ってくれない」「結局、何も改善しなかった」といった深刻な事態を招きかねません。 前回の記事(AI駆動型VBマイグレーション【実践編】)では「どのように進めるか」に焦点を当てましたが、今回はその大前提である「そもそも、マイグレーションと再構築、どちらを選ぶべきか?」という判断基準を徹底的に解説します。

まずは定義から:「マイグレーション」と「再構築」の違い

混同されがちな両者ですが、その目的とアプローチは根本的に異なります。

比較項目マイグレーション (Migration)リビルド (Rebuild) / 再構築
コンセプト既存資産(ロジック・データ)を活かし、新しい環境(基盤・言語)へ移すゼロベースで新しいシステムを作り直す
主な目的・インフラ老朽化対応
・保守性の確保
・コスト削減
・業務プロセスの抜本的改革
・DX推進
・新技術(AI/IoT等)の活用基盤構築
コスト中(再構築よりは低い)
期間中(再構築よりは短い)
リスク中(既存資産の解析・移行リスク)高(要件定義の失敗・長期化リスク)
資産活用◎ 最大限活用する△ 仕様を参考にするのみ
業務影響小〜中(操作性を維持しやすい)大(業務フローやUIが大きく変わる)

簡単に言えば、マイグレーションは「今ある家の良い部分(設計図や柱)を活かしてリフォームする」イメージ、再構築は「更地にして、最新の設計で家を建て直す」イメージです。

【判断基準①】マイグレーションが適しているシステム

特に以下のような特徴を持つシステムは、マイグレーションが最適な選択となるケースが多いです。

ケース1:ビジネスロジックが「資産」である

  • 特徴: システムが担う計算ロジックや業務ルールが、現在もビジネスの根幹であり、今後も大きく変わる予定がない。
  • 解説: 業務の核となるロジックが確立されている場合、それをゼロから作り直す(再構築する)のは非効率であり、リスクも伴います。VB6などで書かれたロジックを、.NET 8のような最新環境(参考:VB6マイグレーションの岐路)へ正確に移行(リライト)することで、大切な「資産」を未来へ継承できます。

ケース2:システムが「ブラックボックス化」している

  • 特徴: 長年の改修で内部構造が複雑化し、ドキュメントも整備されておらず、現行の正確な仕様を誰も把握できていない。
  • 解説: この状態で再構築を進めようとしても、要件定義が困難を極めます。「動いている現行システム」こそが唯一の仕様書である場合、ソースコードを解析して新環境へ移植するマイグレーションの方が、現実的かつ安全です。

ケース3:コスト・期間・業務影響を「最小限」にしたい

  • 特徴: 喫緊の課題(例:サーバーの保守切れ)に対応しつつ、現場の混乱を最小限に抑え、予算も限られている。
  • 解説: 再構築は、要件定義からテストまで含めると数年がかりの大プロジェクトになりがちです。まずはインフラ基盤のみを新しくする「リホスト」や、言語環境を刷新する「リライト」といったマイグレーション手法を選ぶことで、リスクとコストを抑えながら課題を迅速に解決できます。

ケース4:既存の操作性とデータ資産を「維持」したい

  • 特徴: 現場のオペレーションが高度に習熟しており、画面(UI)や操作性を大きく変えたくない。また、過去の膨大なデータをそのまま活用したい。
  • 解説: 再構築はUI/UXが根本から変わるため、現場の再教育コストが発生します。マイグレーションであれば、既存の画面設計や操作感を踏襲しつつ、裏側の基盤だけを新しくすることが可能です。

【判断基準②】再構築が適しているシステム

一方で、マイグレーションでは解決できない、あるいは再構築の方が長期的なメリットが大きいケースもあります。

ケース1:業務プロセス自体が「負債」である

  • 特徴: システムが現状の業務フローに最適化されすぎており、その業務フロー自体が非効率で、DX推進の「足かせ」になっている。
  • 解説: システムを移行(マイグレーション)しても、非効率な業務プロセスまで温存してしまっては意味がありません。業務改革(BPR)とセットで、あるべき姿(To-Be)を描き、それを実現するためにシステムをゼロから作り直す(再構築する)必要があります。

ケース2:ビジネスモデルを根本的に「変革」する

  • 特徴: 「モノ売り」から「コト売り(サブスクリプション)」への転換、複数事業にまたがるシステムの全体最適化など、経営戦略レベルでの変革をITで支える必要がある。
  • 解説: 既存の設計思想では対応できない、まったく新しいビジネスモデルを実現するには、再構築が不可欠です。

ケース3:アーキテクチャが構造的に「限界」を迎えている

  • 特徴: データ量の爆発的な増加に対応できない、外部のSaaSやAPIとの連携が困難、頻繁な機能追加に耐えられない(モノリシック構造)。
  • 解説: 将来的な拡張性や柔軟性(例:マイクロサービス化)を確保するには、システムの「設計思想(アーキテクチャ)」から見直す必要があります。これはリフォーム(マイグレーション)の範囲を超え、建て替え(再構築)が求められます。

ケース4:技術的負債が「清算不能」である

  • 特徴: 継ぎ接ぎだらけの改修により、マイグレーションで移行する価値のある「資産」がほぼ残っておらず、保守コストが膨れ上がっている。
  • 解説: 移行しても保守性がほとんど改善しないと判断される場合は、思い切って再構築を選び、負債をリセットする方が賢明です。

マイグレーションは「延命」でしかないのか?

「マイグレーションは、どうせ単なる延命措置だろう?」という声も聞かれます。

確かに、古い基盤から新しい基盤へそのまま移すだけの「リホスト(クラウド移行など)」は、一時的な延命の側面が強いかもしれません。 しかし、私たちが得意とするVB6から.NETへの移行(リライト)や、プログラム構造を整理するリファクタリングは、単なる延命ではありません。それは、既存の「資産」を活かしつつ、保守性や拡張性を高め、未来のDXに向けた土台を整える「モダナイゼーション(近代化)」の重要な第一歩です。

逆に、安易な再構築は、現行の課題を整理しないまま進めると「新しいレガシーシステム」を生み出す危険性すらあります。

まとめ:自社に最適な「処方箋」を見つけるために

マイグレーションか、再構築か――。この二者択一に絶対的な正解はありません。 重要なのは、「自社のビジネス戦略(未来)」「現行システムの正確な状態(現在)」の両方を見極めることです。

過去の記事(VBマイグレーションの処方箋)で触れたように、かつての「バイブス頼り」なシステム判断ではなく、客観的な分析が求められます。

  • 自社の業務ロジックは、本当に「資産」か?
  • システムは、どの程度「ブラックボックス化」しているのか?
  • 目指すゴールは「現状維持・改善」か、それとも「抜本的変革」か?

この判断に迷われた時こそ、専門家の出番です。

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