レガシーは本当に“悪”か?──クラウド時代の継承戦略【レガシー侍】

目次
「新しさとは、忘れられた何かを再発見することだ。」
― アンドレ・ジッド
クラウド全盛のいま、「古さ」は本当に罪か?
AWSやSaaSの普及により、クラウド移行は“企業ITの標準解”とされつつあります。
インフラを持たずにスケールし、俊敏にサービスを展開できる――この圧倒的なメリットを前に、レガシーシステムは「過去の遺物」として扱われがちです。
「古いからダメ」
「ブラックボックスで保守が大変」
「今さら触りたくない」
そうした声が、あたかも“常識”のように現場を覆います。
しかし私たちは、今いちど問い直さねばなりません。
“古い”ことと、“価値がない”ことは本当に同義なのか。
レガシーが抱える“誤解”と“沈黙”
レガシーシステムが「使えない」とされる理由は、実は技術的な欠陥ではないことが多いのです。
● 当時の設計者が退職し、全容を知る人がいない
● ドキュメントが不足しており、改修に時間がかかる
● 開発言語が現代の技術者にとって馴染みがない
つまり、「機能しない」わけではなく、単に「理解されていない」だけなのです。
これはまさに、組織が“技術の記憶”をうまく継承できなかった結果ともいえます。
クラウド時代の刷新プロジェクトにおいても、この“継承なき移行”が問題を引き起こすことは珍しくありません。
AWSへの移行は「破壊」ではなく「翻訳」である
AWS移行を検討する企業の中には、
「すべてをリセットし、ゼロから設計し直す」
という前提に立つケースもあります。
もちろん、ビジネス要件によっては全面刷新が適している場合もあります。
しかし多くの現場では、業務ロジックやデータフローに長年のノウハウが蓄積されており、それらをいきなり捨ててしまうことで、“空洞化したDX”に陥るリスクも存在します。
AWSは“破壊するためのツール”ではありません。
むしろ、“古い知恵を新しい形に翻訳するための土台”なのです。
● バッチ処理を Step Functions へマッピング
● レガシーDB構造を Aurora へ移行し、処理ロジックは Lambda で再構成
● CloudWatch による既存処理の可視化で、運用負荷を軽減しながら洗練化
こうした段階的なモダナイゼーションこそが、AWSの真価を引き出します。
「古いが動く」ことの確かな価値
20年前のCOBOLバッチが今なお止まることなくデータ処理をこなしている。
夜間バッチの順番に、人事や経理の“忙しい日”を考慮した調整が施されている。
祝日や例外日を自動で読み込む工夫が、静かに組み込まれている。
――こうしたシステムの内部には、現場の知恵と工夫が息づいています。
それは、パッケージ製品では再現しきれない“体温”のある設計です。
AWS移行において最も重要なのは、これらの知恵を「捨てずに活かす」こと。
レガシーとは単なる老朽化ではなく、組織の記憶と文化のアーカイブでもあるのです。
レガシー侍という“橋渡し役”
レガシー侍の活動は、過去の資産を守ることだけが目的ではありません。
「過去の構造を理解し、未来の設計へ翻訳する」ことにこそ本質があります。
AWSのような先端技術と、ホスト時代から続く独自ロジックの間には、時間と思想の隔たりがあります。
● 設計思想の違い
● データ粒度の違い
● ユーザーの“勘所”の違い
その橋渡しには、技術知識だけでなく、“継承の感性”が不可欠です。
レガシー侍は、まさにそのために生まれました。
おわりに:壊すよりも、受け継ぐための視点を
AWSやクラウド技術が普及した今だからこそ、「継承」という選択肢がより重要になっています。
DXとは、過去を否定することではなく、未来のために過去を編集し直すこと。
レガシーを「悪」と決めつける前に、
その中に眠る価値を、AWSという“現代の道具”でどう活かすのか。
それこそが、持続可能な変革=サステナブルDXの出発点ではないでしょうか。
📍次回予告|Vol.3(予定)
「“7割同じ”が正しい選択?──パッケージ導入で見落とされる“現場の知恵”」
現場の声や業務のクセを、新しい仕組みにどう翻訳すべきかを掘り下げます。





