オフショア先としての中国は終わったのか?
オフショア開発と言えば、中国が主流でした。これからは、ベトナムやミャンマーなど、他の地域でのオフショア開発を検討していたり、活用する企業も多いと思います。この話は、正しくもあり、正しくないとも言えます。
オフショア先としての中国
2000年以降、日本のオフショア開発と言えば、中国が主流でした。日本との時差があまりなく、IT技術者の数も多いです。また、スキルの高い技術者が多く、AIやブロックチェーンなど、最新技術に関連したプロジェクトのオフショア先としても選ばれてきました。
しかし、近年では中国国内市場のITニーズの高まりや円安が進んだことで、技術者の人月単価はかなり上昇しています。リーダークラスともなると日本のSE単価を超えるところも出てきており、オフショア開発としてはコストが見合わなくなってきていると言われています。さらに地政学的なリスクも考えるとオフショアとしての中国のメリットはかなり低くいという記事を多く見かけるようになりました。
そして、これまで中国オフショアを強く進めてきたSIベンダーの多くは、中国の次としてベトナムやミャンマーなど、他の地域でのオフショア開発を検討していたり、既に活用し始めている企業も出てきています。また国内でのニアショアに回帰する動きもあるようです。
ところが、中国オフショアは終わったという話は、新聞記事や雑誌など一般論としての中国のことになります。実は、もう少し深く中国の歴史や社会的背景を学ぶと、別の視点も見えてきます。
人件費の真実
どういうことかと言いますと、中国の人件費は、地域によって大きく異なります。人口約14億人もいる巨大な国で面積は約960万㎢と日本の約26倍もあります。一つの地方都市でも、東京と同じくらいの人口(1億人)を抱えており、100万人規模の都市となれば数百あると言われています。
昨今の記事で中国のSE人件費が日本のSE人件費を上回っているというのは、大連や北京など沿岸部や大都市圏の話になります。一方で、内陸部や農村地域の都市に目を向けると、人件費まだまだ日本に比べて安価で、豊富な労働力を抱えており、中国を一つの国として一律のSE単価としてみることに、問題があるということになります。
システムズでも、10年以上お付き合いのある中国の会社があります。このような中国企業の経営者の方と接すると、中国の中でも地域メリットを活かすことで、内陸部や農村地域の都市に拠点を構えて労働力確保と技術力アップを図ることが可能になります。そして、オフショア単価を抑えることが可能となるわけです。
地政学的リスク
労働力が確保できても、昨今のロシア、北朝鮮、中国などの地政学的リスクは回避することは出来ません。それに対しては、2000~2010年ごろに起こった尖閣諸島をめぐる日中の関わりという歴史的視点を踏まえると解決策が見えてきます。
当時、中国漁船と、違法操業として取り締まりを実施した日本の海上保安庁との間で発生した衝突事件がありました。そして、両国民の間で尖閣諸島抗議デモや中国における反日活動等のデモ活動が繰り返されました。当然ビジネスにも多大な影響が生じましたが、さまざまな外交手段やルートを通じてすぐに正常化され、経済活動はその環境に適応しました。2018年に端を発した米中経済摩擦も大きな地政学的リスクと言われましたが、現在もさまざまなビジネスは継続し、必要な商習慣は今でもつながっています。
いつの時代も政治的なリスクによって問題は生じます。しかし、それが一足飛びにビジネスを中断することにはならず、民間企業は何らかの形でその環境に適用し、これまでも経済活動を続けてきたという歴史があるということです。
成功の鍵
人件費の高騰や地政学的リスクなど、大きな課題であることは間違いありません。一方でそれらの課題に対して、本質を深く考えることなく、単に「避ける・辞める」だけでは真の課題解決になりません。現地を一番よく知っている方々の生の情報や、歴史的な背景を踏まえて活動することがビジネスを成功させる鍵になるかもしれませんね。