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属人化したExcel在庫管理をクラウドシステムへ〜DC向け在庫補充業務を9割削減〜

はじめに

ある食品メーカーでは、全国のデリバリーセンター(DC)向けの在庫補充を、担当者がそれぞれのExcelとVBAマクロを使って個別に運用していました。DC在庫の管理や補充数量の判断が、人に大きく依存していたのです。その結果、担当者ごとに判断基準が異なり同じ品質で業務がまわる様になっていませんでした。また、マクロの中身も作成者本人しか把握していないため、異動や退職のたびに業務リスクが高まるという問題が顕在化し、「ExcelとVBAに依存した在庫補充」は限界に近づいていました。本記事では、この在庫補充業務を例に、属人化したExcel/VBA運用をどのように棚卸し・可視化し、どのような考え方で専用の在庫補充システムへ刷新したかを紹介します。

Excelと人の勘に頼った在庫補充の限界

在庫補充業務は次のような問題を抱えていました。

手法のバラつき
担当者ごとにExcelの構成や計算ロジックが異なり、
内容がブラックボックス化している。

精度・スピードが人依存
欠品を恐れて過剰に送る、慎重すぎて補充が遅れるなど、
経験や性格によって在庫精度と作業時間に大きな差が生じている。

属人化と引き継ぎリスク
「◯◯さんじゃないと分からない」という状態で、
異動や退職のたびに引き継ぎが困難になり、業務継続性に大きなリスクを抱えている。

情報システム部門から見えない“野良システム”
Excel+VBAツールが担当者PC上で勝手に増殖し、
バージョン管理やセキュリティ、バックアップも不透明な状態。

在庫補充判断の「平準化」と「業務スピード向上」

今回の取り組みで、メーカーが当初掲げていた主な目的は、「在庫補充判断の平準化」と「業務スピードの向上」でした。

これまでは、担当者ごとに異なるExcelやVBAマクロを使って補充数量を算出していたため、判断基準や計算方法にばらつきがありました。そこで、担当者が変わっても一定のルールに基づいて補充判断ができるよう、在庫補充ロジックを標準化し、業務の精度とスピードを高めることを目指しました。

一方で、取り組みを進め、実際の運用における自動計算・提案の範囲が広がった結果、担当者が行っていた作業そのものを大幅に削減できる見通しも立ってきました。システム化によって業務が整理・標準化されたことで、将来的には少人数で運用できる可能性が見えてきました。

まずは既存の業務を棚卸し現状整理

対策をすすめるための前提として、まず既存運用を整理しました。DCからメール等で送られてくる在庫・出荷情報を基幹システムに登録し、そこから各担当者がデータをダウンロードして、自作のExcel(+VBA)に取り込み、「何日分の在庫があるか」「いつ・何ケース送るか」を個別ロジックで算出していました。算出した数量をもとに営業倉庫へ出荷指示を行い、配車(台数・便・積載量)も担当者が別途判断していました。つまり、DCへ「何個送るか」という最重要の判断が、現場担当者のノウハウと各自のExcelツールに強く依存していました。

AWSベースのサーバーレスWebシステムに刷新

解決アプローチは、当初からWebシステムの構築を前提としていたわけではありません。

最初の要望は、「現在、担当者ごとに作成・利用しているExcelをもとに、新たなExcelベースの標準化ツールを作りたい」というものでした。現場としては、既存の業務を大きく変えず、短期間かつ低コストで、補充計算の方法を標準化したいという考えが出発点でした。

その後、当社がAWSを活用したシステム開発にも対応できることを知っていただき、将来的な拡張性や運用性も含めて検討した結果、「AWSベースのサーバーレスWebシステムとして構築できないか」という方向に発展しました。

Excelベースのツールであれば、短期間・低コストで始められる一方、利用者や対象業務が増えた場合のバージョン管理、アクセス制御、バックアップ、保守性などに課題が残ります。そこで、初期の要件である補充判断の標準化を実現しつつ、将来的な機能拡張や他業務への展開も見据え、Excelから脱却したWebシステムとして再構築する方針となりました。

基盤にはAWSを採用し、アーキテクチャはサーバーレスとしました。これにより、インフラ運用の負担を抑えながら、利用規模や機能の拡大にも対応しやすい構成としています。

SAPとの連携については、初期フェーズではスモールスタートを優先しました。SAPからCSV等をダウンロードして本システムへアップロードし、本システムから出荷指示用ファイルをダウンロードしてSAP側へインポートする、「人手によるファイル連携」を採用しています。

まずは業務の標準化と精度・スピードの向上を優先し、初期投資を抑えながら早期に効果を出すことを重視しました。そのうえで、将来的にはAPI連携やバッチ連携によるさらなる自動化を目指しています。

何をどこまで自動化したのか

データ取り込み(アップロード)
新システムでは、まず基幹システムから出力した「DCごとの在庫数」「DCからの出庫実績(定番・特売)」「倉庫側の在庫・ロット情報」「DCと倉庫の紐づきや配送条件」といったデータを一元的に取り込みます。ユーザーはWeb上のアップロード画面でファイルを選択するだけでよく、どのデータをいつ取り込んだか、結果がどうだったかを画面上で確認できます。これにより、「誰のExcelが最新なのか分からない」といった状態を解消しました。

在庫補充提案ロジック
在庫補充の中核となる「補充提案」機能では、DC×品目ごとに「いつ・何ケース送るか」を一括自動計算します。定番出荷は過去実績から、現在庫、今後の補充予定、予測出荷量(定番+特売)を組み合わせて在庫推移をシミュレーションし、品目ごとに設定された「安全在庫数」「補充点」を基準に必要補充量を算出します。

また、倉庫側のロット情報や賞味期限も確認できるようにし、期限を考慮した在庫補充や出荷判断を支援しています。算出した補充数量は「補充目安数」として提示し、パレット単位に自動調整することで、在庫精度と物流コストの両面を考慮した提案を実現しています。さらに、在庫数量だけでなくロットや賞味期限も確認できるため、賞味期限切れのリスクを抑えながら、適切な在庫補充・出荷判断を行えるようになりました。

担当者による最終判断と上書き機能
システムが算出した「補充目安数」はあくまで提案値であり、最終判断は担当者が行います。ユーザーは画面上で提案値を確認し、そのまま採用することも、一部の品目だけ数量を調整することも可能です。「補充目安反映」ボタンを押せば、提案値をワンクリックで「補充数(確定値)」として手入力で上書き修正できます。これにより、平常時は提案をほぼそのまま使って作業時間を大幅に短縮しつつ、プロモーションや天候要因などイレギュラー時には人が判断して微調整する、という役割分担を実現しました。

配車計画(便・トラック単位の割付)
補充数が確定した後は、その数量をもとに配車計画を立てます。「このDCへ、この日、この品目を合計◯◯ケース送る」という情報を入力すると、どの便・どのトラックに何パレット積むかを画面上で割り振れるようになっています。トラックごとに異なる最大パレット数(DC別の車体条件)を考慮しながら、できるだけ便数を抑えられるようシステムが配車担当者を支援します。属人的な勘に頼らず、誰でも機械的に判断できるようにするための補助機能として位置づけています。

出荷指示用データの出力
最後に、確定した配車情報をもとに、自社倉庫への出荷指示用ファイルと、基幹システム(SAP等)への取込用ファイルを出力できます。現時点では、これらのファイルを人がSAPへアップロードしたり入力したりする運用ですが、初期投資を抑えつつ即効性のある範囲まで自動化することを優先しました。将来的には、API連携やバッチ連携によってこの部分も自動化し、完全なシステム間連携へ発展させる構想です。

成果:在庫補充判断の平準化と業務効率化、将来的な省人化

今回の取り組みによる大きな成果の一つは、担当者ごとの判断のばらつきを抑えられるようになったことです。

これまでは、「誰が担当するか」によって補充数量や作業手順が変わることがありました。しかし、在庫補充ロジックをシステムに実装したことで、一定のルールに基づく補充提案を、担当者に依存せず安定して算出できるようになりました。

欠品防止と過剰在庫防止のバランスについても、個々の担当者の経験や勘に頼るのではなく、安全在庫数や補充点などのパラメータとして管理できるようになっています。これにより、在庫補充判断の平準化と、業務品質の安定化を実現しました。

また、補充数量の自動計算や配車計画の支援により、これまで担当者が時間をかけて行っていた作業の一部を効率化できました。平常時にはシステムの提案値を活用し、プロモーションや天候などのイレギュラーなケースに限って担当者が確認・調整するという役割分担が可能になっています。

また、システム化を通じて業務内容や判断基準が整理され、自動計算・提案できる範囲が広がった結果、将来的には運用体制そのものを大幅にスリム化できる見通しも立ってきました。

これまで約16名で分担していた全国DC向けの在庫補充業務について、将来的には東日本・西日本などのエリア別に、約2名程度の体制で運用できる可能性が見えてきています。業務の標準化とシステム化を進めた結果、要員削減も現実的に検討できるようになりました。

実際、今回の導入効果が評価されたことで、今後の配車ロジックの高度化など、追加開発の相談・依頼にもつながっています。

おわりに:マイグレーションで築いた信頼と業務理解から生まれた在庫補充システム

この案件は、数年前のレガシーシステムのマイグレーション案件をきっかけに始まった関係が土台になっています。その後も基幹まわりの小規模改修や保守を継続したことで、既存システムや運用ルールを理解しているパートナーとしての信頼を得てきました。

加えて、別企業でDC向け在庫管理システムを担当した経験を持っており、DC在庫の性格や売上計上タイミング、「欠品させてはいけない在庫」の考え方、パレット・トラック単位の配車制約といった業務面をユーザー部門と同じ目線で議論できたことも大きな要因です。その結果、現場業務にフィットした在庫補充システムを一緒に作り上げる、という形で受注・推進することができました。

本記事では、ExcelとVBAに依存していたDC向け在庫補充業務を、AWSサーバーレス基盤上のWebシステムへ刷新した事例を紹介しました。

取り組みの出発点は、既存業務を大きく変えずに、Excelベースで在庫補充判断を標準化し、精度と業務スピードを高めたいという要望でした。その後、将来的な拡張性や運用性も踏まえて検討を進め、AWSベースのサーバーレスWebシステムとして構築する方針へ発展しました。

結果として、担当者ごとの判断のばらつきを抑え、在庫補充業務の平準化を実現できただけでなく、業務全体の効率化や、将来的な省人化の可能性も見えてきました。

ExcelやVBAの標準化を検討する際には、短期的にはExcelベースのツールで始める方法もあります。一方で、利用範囲の拡大や保守性、セキュリティ、将来の他業務への展開まで考える場合には、クラウド上のWebシステムへ発展させる選択肢もあります。本事例が、同様の課題を抱える企業の参考になれば幸いです。

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