ローコード開発は「モダン」か?それとも「レガシー加速装置」か?

目次
ローコード開発は、使いこなせば業務変化に素早く追従できる強力な武器になる一方で、使い方を誤ると「最速でレガシー化する装置」にもなり得ます。
なぜローコードがレガシー化を加速させるのか、どの様に設計・運用すれば“レガシー加速装置”ではなく“ビジネスの武器”として活かせるのかを解説していきます。
なぜローコードはレガシー化を加速しやすいのか
ローコードは、コーディングがほとんど不要でもアプリが作れ、IT人材不足も補いやすいといったメリットを持っています。
一方で、設計をきちんと行わないまま作り始めてしい、「とりあえず動くから」と暫定版をそのまま本番稼働させて放置してしまう、といったことが起こりがちです。
つまり、ローコードは「速く作る」ことには非常に優れている一方で、「長く健全に使用する」という視点が抜けやすい構造を持っています。このギャップこそが、ローコードがシステムのレガシー化を加速させてしまう大きなリスクなのです。
ローコードに潜む「古典的レガシー」と同じ罠
「早く作れる」が「長く使える」とは限らない
ローコードが危険になり得る理由は、「新しい技術だからよく分からない」からではありません。むしろ、本質的には昔のレガシーシステムとまったく同じ失敗パターンを、より見えにくい形で繰り返しやすい点にあります。
まず、「早く作れること」と「長く使える」はイコールではありません。ローコードではドラッグ&ドロップだけでアプリをすぐ動かせるため、どうしても設計レビューや境界設計を後回しにしがちです。これは、かつて「COBOLでとにかく急いで作った業務システム」と同じ構図で、短期的な成果を優先した結果、数年〜数十年後に巨大なブラックボックスだけが残るリスクをはらんでいます。
独自仕様によるブラックボックス化
さらに、多くのローコード基盤は独自DSL(独自の記法)、独自データモデル、独自実行基盤や拡張ポイントを持っています。そのため、「なぜこのフローで動いているのか」を説明しづらく、他の基盤に移すイメージも湧かず、結果として誰も触るのが怖くなる――という典型的なブラックボックス化が起こります。これは「メインフレーム+ベンダー独自仕様」とほとんど同じパターンです。
可視化されない属人化
加えて、ローコードは「現場でも触れる」のが売りである一方で、実態としては「あの申請画面は◯◯さんしかわからない」「作った人が異動してから誰も変更していない」といった状態を生みがちです。業務知識、ツールの操作知識、個別ロジックが一人の頭の中にだけあるにもかかわらず、コードとして可視化されていないため、どれだけ属人化しているのかさえ把握しづらい。ここがローコード特有の危険なポイントです。
静かに進むベンダーロックイン
そして、ベンダーロックインが静かに完成してしまう構造です。ローコード基盤の上でデータ構造、ワークフロー、権限モデルまで作り込むと、数年後には特定のITベンダーの製品やサービスに強く依存し、他社への乗り換えが技術的に困難な状態になります。気づけば、典型的なレガシーの状態が出来上がってしまうのです。
ローコードを「レガシー加速装置」にしない4つの原則
しかしローコードを「危ないからやめる」と考える必要はありません。重要なのは、どこに・どの前提で使うかという“使いどころ”と“思想”を間違えないことです。そのための実践的な指針としての原則を示します。
原則1:ローコードはシステムの“外側”に限定して使う
1つ目は、「ローコードはシステムの“外側”に限定して使う」という考え方です。頻繁に変わる UI(画面やフォーム)、申請・承認といったワークフロー、ダッシュボードや一覧などの入力・可視化といったレイヤーは、業務変更に追従するために柔らかくしておきたい「外側の層」です。ここにローコードを使うのは相性が良いと言えます。
一方で、計算や業務ルールなどのコアロジック、マスタやトランザクションの構造といったデータ定義は、ローコードの外に出しておくべき領域です。これらは API やサービス層、データベースとしてプラットフォーム非依存に実装し、ローコード側はそれらを呼び出すクライアントに徹することで、後からローコード部分だけを差し替えることが容易になります。
原則2:「いつでも捨てられる仮設住宅」として位置づける
2つ目は、「ローコードで作るものは“いつでも捨てられる仮設住宅”として扱う」というものです。ローコードで作ったアプリを、最初から永続前提の資産とは見なさないことがポイントです。
数年以上使い続ける前提を置かず、業務変化に対する暫定対応として位置づけ、常に「別の手段に移せるか?」を意識しておくことで、「どうせなら全部ローコードに載せてしまおう」という危険な全乗せ発想を抑えられます。逆に言えば、仮設では済まないレベルで重要な基幹領域は、そもそもローコードの適用範囲から外すべきです。
原則3:判断ロジックは外部に出し、ローコードには閉じ込めない
3つ目は、「判断ロジックをローコードの中に閉じ込めない」ことです。複雑な条件分岐や例外だらけの業務ルール、料金・利益計算といったコア処理をローコード側に埋め込み始めたら危険信号です。
これらはマイクロサービスやドメインサービスなどの外部サービス、あるいはルールエンジンや設定ファイルとして外出しし、仕様を文書や図で明文化した上で、自動テストから直接呼び出せる構造にしておく必要があります。「ローコードは判断する場所ではなく、判断結果を呼び出して表示する場所である」と割り切ることが、安全な設計につながります。
これらの原則を押さえることで、ローコードは「レガシー加速装置」ではなく、「変化に強いビジネス基盤」を支える現実的なツールとして活かせるようになります。
ローコードの価値を決めるのは“技術”ではなく“思想とガバナンス”
ローコードは、ビジネスのアイデアを素早く形にし、業務変化にも柔軟に対応できる強力な手段です。一方で、設計を省いたままでも作れてしまうがゆえに、ブラックボックス化や属人化、ベンダーロックインといった古典的なレガシーと同じ問題を、見えにくい形で抱えやすい側面もあります。
重要なのは、「ローコード=近代化」という思い込みに陥らず、「使い方次第では老化を加速させるリスクもある道具」として捉えることです。そのうえで、どこに使うか、どうガバナンスするか、といった原則を決めておく必要があります。
「どんな思想とガバナンスでローコードを運用するのか」この視点を持てるかどうかが、ローコードをレガシー加速装置ではなく、真のビジネス加速装置にできるかどうかの分かれ目です。




